工程0:工事範囲を作業単位で固定する

調査は建物全体を眺めることからではなく、今回の工事で壊す、剥がす、切る、穴を開ける、研磨する箇所を図面へ落とすことから始まります。「エアコン交換」「原状回復」といった工事名だけでは、天井板、壁、配管貫通部、保温材、ガスケットなど実際に触れる材料が分かりません。施工会社の作業手順を一つずつ建材へ置き換えます。

対象外範囲も明示します。ただし、搬出経路の壁を外す、追加配管のため開口するなど設計変更があれば、調査済み範囲も変わります。工事図には版番号と日付を付け、調査者が確認した版と見積・施工で使う版を一致させます。

工事名から調査範囲へ変換する
  1. 作業を分解撤去・穿孔・切断・研磨・剥離を列挙
  2. 接触材を特定仕上げ・基材・下地・接着層・設備材を確認
  3. 図面へ色分け部屋・部位・範囲・対象外を表示
  4. 調査者が確認施工手順と建材一覧の漏れを点検
  5. 版を固定見積・調査・施工で同じ図面を使用

工程1:発注者から資料と現地条件を受け取る

発注者・建物所有者は、設計図書、仕上表、改修履歴、過去の調査結果、製品資料など手元の情報を元請事業者へ提供します。資料提供だけで調査が完了するわけではありませんが、増築境界、後施工材、設備更新年代を把握し、現地で確認する場所を絞る重要な入力です。

資料がない場合は「書面なし」と記録し、現地で建物構造、部屋、建材を整理する計画を立てます。図面がないことを理由に築年や外観だけで非含有と判断しません。発注者は、天井裏や機械室へ入る鍵、設備停止、居住者・テナント調整、採取許可、適正な費用と工期も確保します。

工程1:発注者から資料と現地条件を受け取る:比較・確認表

工程1:発注者から資料と現地条件を受け取る:比較・確認表
資料・条件確認できること不足時の対応
平面図・立面図部屋、面積、外壁・屋根範囲現地採寸で調査図を作成
仕上表・矩計図仕上げ、下地、接着層の構成端部・点検口・開口部で確認
仕様書・材料表製品名、メーカー、施工年代現物印字・形状・寸法を確認
改修履歴・過去報告書後施工材、既調査部位所有者・施工会社へヒアリング
施工図・施工要領実際に触れる範囲と方法施工者と現地でマーキング
立入・採取条件鍵、停止、養生、補修、時間帯関係者調整と予備日を設定

工程2:書面調査で現地確認項目を作る

書面調査では、建築・改修の時期、用途、構造、仕上げ、製品名、メーカー、型番等を確認し、石綿含有建材データベースやメーカー資料と照合します。完成年だけでなく着工日、増築日、材料の製造時期を区別します。2006年9月以降という情報も、資料で着工日を確認できる範囲に限って使います。

製品名が資料にあっても、現物が改修で置き換わっていないか確認が必要です。データベースは含有製品の検索を支援しますが、全製品を網羅するものではなく、掲載がないことは非含有の証明になりません。書面段階の結論、現地で確認する印字・位置・層、分析候補を建材一覧へ記録します。

工程2:書面調査で現地確認項目を作る:比較・確認表

工程2:書面調査で現地確認項目を作る:比較・確認表
書面での状態現地へ渡す確認事項この時点の扱い
製品・年代が特定できる現物との同一性、改修有無現地照合後に総合判定
含有情報がある対象位置・数量・層の一致含有候補として確認
非含有資料がある型番・製造時期・現物一致一致根拠を保存
資料がない・不明材質、印字、施工境界、採取可否不明のまま目視へ進む
過去報告書がある今回範囲と試料・判定根拠の対応不足部位を追加調査

工程3:現地目視で全材料と書面差異を確認する

現地では書面と現況を照合し、工事対象部分のすべての材料を部屋・部位・層ごとに確認します。天井板の上の吹付け材や耐火被覆、壁裏の下地、床材の接着剤、配管保温材、ダクト接続部、仕上塗材の下地調整材など、施工時に触れる層を見ます。

同じ見た目でも施工時期や製品が異なることがあります。増築境界、部分補修、色・柄・厚さの違い、固定方法、裏面印字を記録し、同一建材としてまとめる範囲を判断します。写真は建材の接写だけでなく、どの部屋・方向・位置か分かる遠景と対応させます。

居住中、高所、設備稼働中、密閉区画などで見られない部分は、非含有にせず「未調査」と記録します。位置、見られない理由、誰が、いつ、どの工程で確認するかを報告書と施工計画へ残し、確認前に対象部位へ触れない停止条件を決めます。

現地で層を追う順序
  1. 空間・部屋調査図と現況、増改築境界を照合
  2. 部位天井・壁・床・屋根・外壁・設備を確認
  3. 表面仕上げ塗装、クロス、床シート、仕上塗材等
  4. 基材・下地ボード、成形板、下地調整材、接着剤
  5. 隠蔽・設備材吹付け、耐火被覆、保温材、ガスケット
  6. 不能部位位置・理由・追加確認時期を記録

工程4:分析するか、含有とみなすかを決める

書面調査と目視調査を行っても石綿含有の有無が明らかにならない建材は、分析調査または石綿含有とみなす扱いを選びます。分析は、必要な結論、試料の性状、対象6種類、納期を調査者と分析者が確認し、採取位置・試料番号・建材名を一貫して管理します。

分析せず含有とみなす場合は、対象部位・建材・層の範囲を図面へ明示し、施工・保護具・飛散防止・廃棄物まで含有建材と同じ措置を計画します。工事費や工法への影響を比較せず「安全側だから」と建物全体を曖昧にみなすと、必要以上の範囲と未確認箇所が混在します。

試料採取は代表性と安全性の両方が必要です。建材・工法・作業に応じ、湿潤化、局所養生、適切な呼吸用保護具、清掃、採取跡の封止・補修を行います。所有者が無防備に削って郵送すると、飛散・誤採取・層の取り違えにつながるため、調査者へ依頼します。

工程4:分析するか、含有とみなすかを決める:比較・確認表

工程4:分析するか、含有とみなすかを決める:比較・確認表
判定区分意味工事前の扱い
含有書面・分析等の根拠で石綿含有を確認建材・作業に応じた規制措置を計画
非含有書面・現物・分析等で非含有を確認根拠を施工者へ引き継ぐ
みなし含有分析せず含有として扱う範囲を決定含有と同じ措置を実施
未調査現時点で確認できない触れず、追加調査条件を設定
対象外今回の工事では触れない範囲変更時に再判定
局所養生と保護具を用いて建材試料を安全に採取する調査者
採取は代表性の判断、飛散防止、試料管理、採取跡の補修までを含む工程です。

工程5:総合判定と報告書を一つにつなぐ

総合判定では、部屋、部位、建材、層、判定、根拠、写真、試料番号を一つの建材台帳へ結び付けます。分析結果だけを別紙で添付しても、どの床・壁・配管を代表するか分からなければ施工者は使えません。図面の色や記号と建材一覧、採取写真、分析証明を相互参照できるようにします。

非含有にも根拠を記載します。「築年が新しい」「見た目が違う」だけではなく、着工日の書面確認、製品・型番照合、分析等のどれで判断したかを残します。過去報告書を使う場合は今回範囲、現物、改修履歴との一致を確認します。

未調査部位は空欄や非含有欄へ混ぜず、位置、理由、追加調査時期、作業停止条件を明記します。報告書のページ数ではなく、施工者がどの建材をどの方法で扱い、どこで追加確認するか判断できることが完了条件です。

  • 建物情報、工事範囲、調査日、調査者名と資格
  • 工事範囲と調査範囲を示す版管理された図面
  • 部屋・部位・建材・層ごとの判定一覧
  • 書面・製品照合・分析等の判定根拠
  • 採取位置図、前後写真、試料番号、分析結果
  • 未調査部位、理由、追加調査のタイミング
  • 改訂履歴と施工へ引き継ぐ注意事項

工程6:発注者説明と施工者への引継ぎ

元請事業者は事前調査結果を発注者へ書面で説明し、含有・非含有・みなし含有・未調査の範囲を共有します。含有が判明した場合は、除去等の方法、必要な飛散・ばく露防止措置、届出、廃棄物、費用、工期への影響を説明し、発注者が工法・予算・工程を判断できる状態にします。

調査報告書をメールで送るだけでは引継ぎになりません。施工図と見積書へ含有箇所・数量・工法を反映し、作業計画、作業者教育、保護具、隔離等、現場掲示の担当と完了日を決めます。協力会社には自社作業で触れる建材だけでなく、搬出・仮設・清掃で接する範囲も周知します。

設計変更や追加工事があれば、調査済み範囲との比較表を作ります。範囲外だった建材を追加する場合は、見積変更の前に調査要否を確認し、必要なら追加調査、行政報告、届出、作業計画を連動して更新します。

調査結果を工事へ渡す5点照合
  1. 調査報告書建材・判定・根拠・未調査を確定
  2. 施工図触れる範囲と含有箇所を一致
  3. 見積書対策・専門工事・廃棄費を反映
  4. 工程・届出分析・届出・周知・追加調査を反映
  5. 現場計画工法・保護措置・停止条件を周知

工程7:行政報告・現場掲示・3年保存を完了する

一定規模以上の工事は、石綿の有無にかかわらず工事開始前に石綿事前調査結果報告システム等で報告します。建築物解体80㎡以上、建築物改修の税込請負代金100万円以上等の基準は行政報告の基準であり、基準未満でも事前調査そのものや現場掲示を省略できる意味ではありません。

事前調査結果の記録は作業場へ備え付け、結果の概要を見やすい場所へ掲示し、調査終了日から3年間保存します。システムの入力内容は詳細な調査報告書の代わりではないため、図面、写真、分析証明、未調査部位を含む記録を別に保管します。

吹付け石綿や石綿含有保温材等を除去する工事では、計画届・作業届・特定粉じん排出等作業実施届出等が別に必要になる場合があります。14日前までの届出と結果報告を混同せず、自治体条例の追加手続も工事場所ごとに確認します。

工程7:行政報告・現場掲示・3年保存を完了する:比較・確認表

工程7:行政報告・現場掲示・3年保存を完了する:比較・確認表
工程主な成果物完了条件
工事範囲色分け図・施工要領接触する部位・層と対象外が確定
書面調査資料一覧・照合記録現地確認項目を抽出
現地目視建材一覧・写真全対象材と不能部位を記録
分析・みなし試料台帳・結果・みなし図試料と部位・層が一致
総合判定調査報告書根拠・未調査・追加条件が明示
引継ぎ発注者説明・施工反映表工法・費用・工程へ反映
報告・掲示受付記録・掲示・保存台帳対象手続と現場措置を完了

工程8:2026年の工作物調査を分岐させる

工場やプラントでは、建屋と、反応槽、加熱炉、ボイラー、圧力容器、煙突、配管設備等が同じ工事に含まれることがあります。建築物の壁・天井を調べた報告書だけで、工作物の保温材、ガスケット、ライニング等まで調査済みとは限りません。対象を区分して範囲図と担当者を分けます。

2026年1月1日以降着工の一定の工作物では、工作物石綿事前調査者等の資格要件を確認します。工作物の種類と材料により調査できる資格の範囲が異なるため、建築物調査者の資格証だけで一式発注せず、各対象を誰が調査し、誰が一つの工事報告へ統合するかを契約前に決めます。

工作物は銘板、設備台帳、系統図、保全記録、定期修理履歴が重要な書面資料です。稼働停止や高温・高所、閉所等の立入条件もあるため、停止計画と安全管理を含めて現地確認を設計し、建築物の標準日程をそのまま当てはめないようにします。