結論:建材台帳と稼働継続計画を工事前から連動させる

病院・介護施設では、突然の漏水、空調故障、医療機器更新、病室改修が起きます。そのたびに天井や壁を開けてから含有不明と判明すると、診療停止や入所者移動が長引きます。建築図・設備図・過去調査・改修履歴を統合し、場所ごとの含有・非含有・未調査を台帳化します。

台帳だけでなく、吹付け材や保温材の劣化点検を定期保全へ入れます。粉じん飛散が疑われる、または劣化してばく露のおそれがある場所は、分析結果を待つ間も立入禁止、適切な呼吸用保護具・保護衣などの暫定措置を取り、施設管理・医療安全・労務の責任者へ共有します。

改修時は工事区域の法令対応に加え、患者区域と空調系統を分離し、代替診療・居室、救急動線、防火区画、感染管理、騒音・振動、給排水・医療ガス停止を調整します。石綿施工計画と施設運営計画を別紙のまま放置せず、同じ工程表へ統合します。

病院・介護施設の石綿管理サイクル
  1. 台帳化建材・設備・区画・判定・未調査を記録
  2. 定期点検劣化・漏水・破損・利用状況を確認
  3. 工事前調査施工位置と隠蔽部を資格者が再確認
  4. 稼働調整患者動線・設備停止・空調・感染管理
  5. 完了・更新再開確認後に台帳と緊急手順を更新

厚生労働省の病院調査が示す現在の課題

厚生労働省の令和6年10月1日時点フォローアップでは、吹付けアスベスト等についてばく露のおそれのある場所を有する病院が4病院、分析調査依頼中または予定が5病院でした。石綿含有保温材等では、それぞれ47病院、64病院でした。

数字は全国の全施設で同じ危険があるという意味ではありませんが、過去の調査を実施していても、未分析、劣化、設備保温材などの課題が残り得ることを示します。特にボイラー、機械室、配管シャフト、厨房、洗濯、非常用発電設備は、患者が立ち入らなくても職員・保守作業者が接触します。

厚生労働省は、ばく露のおそれを確認した場合、患者の安全のため施設使用制限・修繕等を含む対応、除去等までの立入禁止、管理上立ち入る労働者の保護具使用を指導するよう都道府県へ要請しています。施設は分析結果待ちを理由に無管理で使用を続けず、暫定管理を決めます。

病院フォローアップ調査の主な公表値(調査時点:令和6年10月1日)

病院フォローアップ調査の主な公表値(調査時点:令和6年10月1日)
区分ばく露のおそれのある場所を有する病院分析依頼中・予定
吹付けアスベスト等4病院5病院
石綿含有保温材等47病院64病院

公表値は厚生労働省のフォローアップ対象・回答に基づく集計です。個別施設の含有有無は施設ごとの調査で確認します。

優先調査する場所は患者区域だけではない

病室や廊下の天井・壁だけでなく、機械室、電気室、ボイラー室、厨房、洗濯室、地下ピット、配管シャフト、天井裏、バックヤード、霊安室、職員エリアを対象にします。吹付け材、耐火被覆材、断熱材、配管・ダクト保温材、成形板、床材、接着剤、仕上塗材、ガスケット・パッキンを設備台帳と照合します。

増築を繰り返した施設では、同じ廊下でも棟・工区・改修年で材料が異なります。部屋名だけで代表試料を決めず、防火区画、構造、仕上げ、施工境界、天井高さ、設備系統を基に区分します。

介護施設では居室、浴室、厨房、機械浴、共同空間が長時間利用され、全面休館が難しい場合があります。日常点検時に破損させず観察できる位置を決め、異常時の立入制限と代替場所を用意します。

施設別の優先確認場所

施設別の優先確認場所
場所主な候補材料運用上の注意
病室・廊下・診療部門天井板、壁板、床材、接着剤患者移動、清潔区域、夜間利用
機械室・ボイラー室吹付け材、耐火被覆、配管保温材高温、狭所、保守員の立入
天井裏・シャフト吹付け材、保温材、耐火シール空調経路、点検口、隠蔽部
厨房・浴室・洗濯成形板、床材、配管保温、パッキン給排水停止、衛生、連続運用

事前調査は医療・介護の工事動作まで確認する

医療機器の据付けではアンカー、電源、配管、排気、シールド工事が生じます。設備会社の見積に「内装工事別途」とある場合でも、元請は工事全体の建材影響範囲を統合し、書面・目視・必要な分析を行います。

ナースコール、照明、空調、スプリンクラー、酸素・吸引設備、ベッドヘッド、手すりの交換は小規模でも穿孔・撤去を伴います。施工位置だけでなく、工具が届く下地、天井裏の耐火被覆、貫通処理材を確認します。

緊急修繕では、漏水停止や患者安全確保と、建材を壊す復旧作業を分けます。応急措置後に調査時間を確保し、未調査材料を見つけたときの停止・仮養生・代替運用を当直者も使える手順書にします。

  • 医療機器本体だけでなくアンカー・電源・配管・排気の施工範囲を確認する
  • 別発注の設備・内装・電気・防災工事を元請が一つの調査範囲へ統合する
  • 工事位置の表面材、下地、接着剤、耐火・保温材、隠蔽部を層別に判定する
  • 夜間・緊急時の応急措置と恒久復旧を分ける
  • 未調査材料発見時の連絡先・患者移動・仮養生を当直手順へ入れる

患者・職員・工事動線を交差させない工区計画

工事区画への作業者入口、資材搬入、廃棄物搬出を、患者・入所者、給食、リネン、医薬品、清潔器材、救急、避難経路と分離します。エレベーターを共用する場合は、時間帯、養生、清掃、優先利用、故障時の代替を決めます。

レベル1・2除去の負圧隔離は、病院の感染隔離や手術部等の圧力管理と干渉する可能性があります。既存空調を止める区画、給排気口の封止、隣室差圧、煙感知器・スプリンクラー、非常電源を設備・防災・感染管理担当と事前に試験します。

工区は、患者移動の回数、代替室、スタッフ配置、設備停止時間、清掃・再開確認を踏まえて分けます。細か過ぎる工区は養生設置・解除回数を増やし、広過ぎる工区は休止範囲を拡大します。試験工区で運用を確認してから展開します。

交差させない4つの流れ
  1. 患者・入所者診療・生活・救急・避難の安全動線
  2. 清潔物品医薬品・器材・給食・リネンの搬送
  3. 工事作業者入場・更衣・セキュリティゾーン
  4. 廃棄物密封・搬出・仮保管・運搬の専用動線

図面上で交差が避けられない場合は、時間分離、閉鎖、清掃、監視、代替経路を明記します。

空調・医療ガス・防災設備の停止と復旧を管理する

工事前に、対象区画と隣接区画の空調機、給気・還気、排気、ダンパー、圧力設定を系統図で確認します。患者区域へ循環する系統は、粉じんを移動させない停止・封止・復旧手順を設備責任者が承認します。

医療ガス、吸引、給排水、非常電源、ナースコール、火災報知、スプリンクラーを停止・迂回するときは、代替手段、監視、復旧試験を決めます。石綿工事会社が設備の臨床上の重要性を単独判断しない体制にします。

復旧時は、隔離解除の完了と空調内部・フィルター・ダクトの清浄を確認し、運転モード、差圧、温湿度、警報、防災設備を試験します。工事完了と施設再開を同時刻にせず、試験・清掃・承認の時間を工程に確保します。

停止・復旧計画の確認

停止・復旧計画の確認
設備停止中の代替再開前試験
空調・換気代替空調、区画移動、圧力監視清浄、風量、差圧、警報
医療ガス・吸引ボンベ・予備系統・利用停止漏れ、圧力、純度、端末
給排水・給湯仮設・利用制限・衛生管理漏れ、水質、温度、排水
防災・非常電源火気監視、代替警報、避難計画感知・連動・非常運転

工事中の監視と情報共有

隔離・負圧、集じん・排気、セキュリティゾーン、掲示、保護具、廃棄物を施工者が点検し、施設側は患者動線、空調、隣室利用、苦情、異臭・粉じん、予定外作業を監視します。窓口を一本化し、現場から病棟へ直接ばらばらに連絡しない体制にします。

工事日報は、除去量だけでなく、患者区域の運用変更、設備停止、負圧・排気、入退場、廃棄物搬出、異常・是正、翌日の影響を記載します。朝夕の短い会議で施設・施工・感染管理・設備が共有します。

漏えい、養生破損、排気異常、未調査材料、患者の無断立入などがあれば、作業停止、立入制限、連絡、清掃・測定、患者安全評価を計画どおり実施します。発生を隠さず記録し、再開条件を関係者で承認します。

日次調整で共有する項目

日次調整で共有する項目
時点施工側施設側
開始前隔離・負圧・排気・作業者・工程患者移動・設備停止・立入制限
作業中除去・湿潤・入退場・異常隣室・空調・苦情・救急影響
終了時清掃・廃棄物・養生・翌日準備夜間運用・警備・設備状態
異常時停止・封止・原因・是正患者安全・区域閉鎖・行政連絡

患者区域の再開は隔離解除後に別途承認する

除去後は、事前調査範囲との照合、取り残し確認、清掃、廃棄物・工具、飛散のおそれがないことの確認、隔離解除を行います。さらに施設再開には、空調・医療設備・防災・感染清掃・家具復旧・患者動線の確認が必要です。

施工者の完了報告、確認者の資格・写真、負圧・排気記録、濃度測定、廃棄物記録を受領し、施設側の設備試験と清掃記録を組み合わせます。誰が臨床・介護運用の再開を承認するかを工事前に決めます。

一部だけ再開する場合は、残工事区画との境界、空調、避難経路、騒音・振動、工事者動線を再評価します。工事完了図と残置・未調査部位を建物台帳へ反映し、次回工事へ引き継ぎます。

  • 取り残し・清掃・隔離解除の施工側完了確認
  • 空調・医療ガス・給排水・防災の設備復旧試験
  • 感染管理上の清掃、室内環境、物品復旧
  • 患者・入所者・職員・救急・避難動線の再開確認
  • 残工事、残置建材、未調査部位の境界表示
  • 調査・施工・完了記録を施設建材台帳へ反映

発注仕様と施設台帳の最終チェック

見積依頼時に、調査範囲、資格者、稼働中調査、工区、患者移動、設備停止、夜間・休日、感染管理、隔離・負圧、廃棄物、再開試験、記録を提示します。一般建物の標準見積だけでは、施設側調整費と予備日が不足します。

台帳には建材の含有有無だけでなく、部位、施工範囲、調査日・方法、分析番号、劣化、除去・封じ込め・残置、写真、次回点検、アクセス条件を記録します。図面上で含有・非含有・未調査を区別します。

病院・介護施設で工事をゼロにすることはできません。平時に情報と緊急手順を整備し、工事決定時には資格者と施設運営担当が早期に協働することが、患者安全と工期の両方を守ります。

施設台帳の必須項目

施設台帳の必須項目
区分記録利用場面
建材位置、種類、判定、分析、劣化定期点検・工事前調査
設備系統、保温材、ガスケット、停止条件保守・故障・更新
工事除去・残置・工法・完了・廃棄次回改修・売買・報告
運用立入制限、緊急連絡、代替区域劣化・漏水・災害時