分析方法ではなく工事で必要な結論から決める

解体・改修前の事前調査では、最初に『石綿の有無を知りたいのか』『0.1重量%を超えるか確認したいのか』『分析せず含有建材として扱うのか』を決めます。方法名を先に選ぶと、定性で足りる案件へ定量を追加したり、逆に提出先が求める数値を取得していなかったりするためです。

通常は、書面調査と現地での目視調査を行い、それでも石綿の使用の有無が明らかにならない建材について分析を検討します。分析を行わず石綿含有とみなし、石綿則などに基づく措置を講じる選択もありますが、みなし範囲を図面と建材一覧へ明記しなければ、別の部位へ誤って適用されます。

発注時には工事範囲、建材名、部屋・部位・層、採取位置、必要な結論、提出先、速報と正式報告の違いを分析機関へ伝えます。『アスベスト分析一式』という依頼だけでは、分析機関は試料が建物のどこを代表するか判断できません。

工事判断につながる分析依頼の流れ
  1. 工事範囲を確定撤去・切断・穿孔・研磨する部位と全層を整理
  2. 書面・目視調査製品情報と現物を照合し判定根拠を確認
  3. 分析かみなしか不明な建材ごとに目的と工期・対策を比較
  4. 方法を選定試料性状と必要な結論に合う方法を分析者が選ぶ
  5. 総合判定結果を採取位置と工事範囲へ戻し施工へ引き継ぐ

分析が必要な場合と、分析しないで含有とみなす場合

石綿障害予防規則の事前調査では、書面と目視で使用の有無が明らかにならなかったとき、原則として分析調査を行います。ただし、対象建材を石綿含有とみなし、法令に定めるばく露・飛散防止措置を講じる場合は、分析を省略できます。分析費だけでなく、含有前提の工法、届出、廃棄、工期まで比較して決める必要があります。

『未調査』は『みなし含有』ではありません。天井裏へ入れない、設備を止められない、仕上げを開口できないなどの理由で確認していない部位は、位置、確認できない理由、追加調査の時期、発見時の作業停止条件を報告書へ残します。未調査のまま非含有欄へ入れてはいけません。

分析が必要な場合と、分析しないで含有とみなす場合:比較・確認表

分析が必要な場合と、分析しないで含有とみなす場合:比較・確認表
判定区分意味工事前の対応
含有書面・目視・分析等で石綿含有を確認建材と作業に応じた法令上の措置を計画
非含有対象建材について非含有の根拠を確認根拠と適用範囲を施工者へ引き継ぐ
みなし含有分析を行わず含有として扱う含有と同じ措置を実施し範囲を明示
未調査現時点で使用の有無を確認できない対象へ触れず追加調査条件を設定
対象外今回の工事で触れない範囲変更時に再判定

JIS A 1481は5部構成で、単純な優劣ではない

厚生労働省のアスベスト分析マニュアル第2版は、建材製品中の分析に用いるJIS A 1481規格群を5部構成として整理しています。第1部と第2部は定性的判定、第3部から第5部は定量分析に関係し、顕微鏡、X線回折、重量法など原理が異なります。

第1部は実体顕微鏡と偏光顕微鏡等による定性、第2部はX線回折と位相差・分散顕微鏡を併用する定性です。第3部はX線回折による定量、第4部は重量法と顕微鏡法による定量、第5部はX線回折による定量で、2021年に追加されました。

どの番号が常に上位という関係ではありません。試料の種類、妨害物質、石綿繊維の状態、定性・定量の目的に応じて、必要な知識と技能を持つ分析者が方法を選びます。厚生労働省マニュアルは、JISの組合せ手順だけに固定せず、精度確保のため複数方法を組み合わせることが望ましいとしています。

JIS A 1481は5部構成で、単純な優劣ではない:比較・確認表

JIS A 1481は5部構成で、単純な優劣ではない:比較・確認表
規格主な区分主な原理・役割発注者が確認すること
JIS A 1481-1定性実体顕微鏡・偏光顕微鏡等で石綿を同定不検出判定が分析マニュアルの留意点に沿うか
JIS A 1481-2定性X線回折と位相差・分散顕微鏡を併用両方の結果と総合判定が記載されるか
JIS A 1481-3定量X線回折で含有率を求める定量下限と妨害物質の影響
JIS A 1481-4定量重量法と偏光・電子顕微鏡等による定量適用条件と推定含有率
JIS A 1481-5定量X線回折による定量定性方法との組合せと試料調製

定性分析では6種類すべてを対象にする

法令上の石綿は、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトの6種類です。2008年以前の一部報告書では、国内で主に使われた3種類だけを対象としている場合があるため、『昔の分析でなし』という結論だけを現在の工事へ流用できません。

定性分析は、単に繊維らしいものが見えたかを確認する作業ではありません。試料全体の観察、必要な前処理、繊維の形態と光学的性質、X線回折結果など、採用方法の判定手順に沿って含有の有無と種類を判断します。

電子顕微鏡法は光学顕微鏡で同定が難しい場合の補完に使われますが、厚生労働省マニュアルは電子顕微鏡法だけで『石綿なし』とは判定できないとしています。報告書に電子顕微鏡の結果だけがある場合は、定性全体の判定手順を分析機関へ確認します。

定性分析結果を採用する前の確認
  1. 試料情報建材・層・採取位置と試料番号が一致
  2. 6種類法令対象の6種類を確認
  3. 方法偏光・X線・位相差分散等の実施内容
  4. 判定手順前処理、観察、補完方法が説明可能
  5. 適用範囲分析した試料から建材範囲へ戻して総合判定

定量分析と0.1重量%基準を混同しない

現在は石綿を0.1重量%を超えて含有する製剤その他の物が規制対象です。しかし、全ての試料に定量分析を追加しなければならないわけではありません。定性で石綿ありと判定した後、定量を行わず0.1%を超えるものとして法令上の措置を講じることも可能です。

定量値が必要かは、発注仕様、処分・補助制度、研究・資産管理などの目的で決めます。数値があることと、工事範囲の建材が網羅されていることは別問題です。精密な定量結果でも、採取した試料が施工範囲を代表しなければ事前調査の抜けを補えません。

X線回折による定量では、定量下限、共存物質、前処理後の残さ等が結果へ影響します。0.1%未満という表示だけでなく、その値を判断できる定量下限と、妨害によりピークの有無を判断しにくくなっていないかを確認します。

定量分析と0.1重量%基準を混同しない:比較・確認表

定量分析と0.1重量%基準を混同しない:比較・確認表
目的定性定量注意点
工事前に含有の有無を決める原則として中心必須とは限らない含有なら0.1%超として措置する選択が可能
含有率の数値が必要先に含有を確認目的に適した方法で実施提出先が求める方法・下限を確認
分析せず含有として扱う実施しない選択実施しないみなし範囲と含有前提の措置を明記
非含有を確認規定手順で判定通常は定量を足す目的が乏しい試料代表性と6種類の確認が前提

複層建材は工事で触れる層ごとに結果を読む

外壁仕上塗材、床材、壁紙、ボード、配管保温材などは複数の材料が層状になっています。外壁なら仕上塗材と下地調整材、床ならタイルやシートと接着剤、壁ならクロス、パテ、ボード、接着剤を分け、今回の作業がどの深さまで触れるかを照合します。

試料の表面だけを採り、工事で研磨する下地の層を調べていなければ、表面の非含有結果を下地へ広げることはできません。反対に、一部の層で含有が見つかった場合も、報告書ではどの層が含有かを明確にし、除去範囲と工法へ反映します。

分析機関の結果には試料に対する情報が示されます。建物のどこまで同じ結果を適用するかは、施工年代、製品、層構成、改修履歴を確認した調査者が総合調査報告書で判断します。分析証明書だけを施工会社へ渡して事前調査完了とはできません。

複層建材は工事で触れる層ごとに結果を読む:比較・確認表

複層建材は工事で触れる層ごとに結果を読む:比較・確認表
建材例確認する層誤った読み方必要な確認
外壁仕上塗材・下地調整材・躯体表面塗膜の結果を全層へ適用研磨・剥離が届く層を特定
タイル・シート・接着剤・下地床材の非含有で接着剤も非含有とする接着剤を削るか施工手順と照合
壁・天井クロス・パテ・ボード・接着剤見えている仕上げだけを分析開口・切断する断面全体を確認
配管表面材・保温材・継手部材直管部でエルボや補修部を代表施工区画・熱履歴・層構成を区分

分析調査者の要件と分析機関の品質管理を確認する

2023年10月1日以降、石綿則に基づく分析調査は、分析調査講習を受講して修了考査に合格した者、または告示で同等以上の知識・技能を有すると認められる者に行わせる必要があります。現地の事前調査者資格と、実際に試料を分析する者の要件は別に確認します。

依頼先の会社名や営業担当者の資格だけでなく、実際の分析者、採用方法、教育記録、精度管理、クロスチェック、二次確認体制を確認します。外注する場合は、採取会社、分析機関、総合判定を行う調査者の責任境界を見積書と報告書に残します。

厚生労働省マニュアルは、分析機関の望ましい組織体制と結果の信頼性確保も扱っています。判定が難しい試料を誰がレビューするか、方法を追加する場合の連絡、残試料の保管、訂正版の発行手順まで契約前に確認すると、工事直前の手戻りを減らせます。

分析調査者の要件と分析機関の品質管理を確認する:比較・確認表

分析調査者の要件と分析機関の品質管理を確認する:比較・確認表
確認対象契約前に聞くこと証拠
分析者告示上の要件を満たすか修了証・評価合格等
分析方法試料性状に対する選定理由分析依頼仕様・報告書
精度管理再確認・クロスチェック体制品質管理記録の説明
外注関係誰が採取・分析・総合判定するか責任分担表
判定困難時追加方法・再採取の連絡条件契約条件・変更履歴

分析結果報告書は10項目を一本につないで読む

最初に、調査報告書の試料番号、採取位置図、採取写真、分析依頼書、分析機関の受付番号が一致するか確認します。番号が一つでもずれると、正しい分析結果を別の部位へ適用する事故につながります。

次に、建材名と層、採取日・採取者、分析方法、対象6種類、定性・定量結果、定量下限、分析者、判定困難時の注記を確認します。『不検出』『0.1%未満』の一語では、工事に使える範囲と判定根拠が不足しています。

分析結果報告書は10項目を一本につないで読む:比較・確認表

分析結果報告書は10項目を一本につないで読む:比較・確認表
確認項目確認内容不備時の対応
試料番号採取図・写真・依頼書・分析表が一致訂正前は工事へ適用しない
建材・層施工対象の全層が記載欠ける層を追加確認
分析方法JIS番号と厚労省マニュアル上の方法選定理由を照会
6種類対象石綿が明確旧3種類のみなら再評価
定量下限0.1%判定に足りる下限分析機関へ照会
分析者資格要件を満たす実施者証拠を確認
適用範囲試料結果を適用する部屋・部位調査者が総合報告へ反映

結果が食い違う・判定しにくいときの考え方

定性分析で石綿ありと判定されたのに、X線回折による定量で石綿の回折線ピークが確認できないことがあります。この場合、直ちに『定性が誤り』『非含有』とは判断せず、前処理、共存物質、定量下限、観察結果を分析機関へ確認します。

厚生労働省の留意事項では、定量下限が0.1%以下である場合に定量下限以下として扱える条件を示す一方、定量下限が0.1%を超える場合や、不純物等でピークの有無を判断しにくい場合は、0.1%を超えて含有するものとして扱う考え方を示しています。発注者が報告書の一欄だけを見て非含有へ読み替えてはいけません。

試料量不足、層の欠落、採取位置の取り違え、分析者が判定困難とした場合は、追加前処理、別方法による確認、残試料の再分析、現地での再採取を選びます。どの条件で作業を止め、誰が追加費用と工期を承認するかを事前に決めます。

判定に疑問がある場合の差戻しフロー
  1. 不一致を特定定性・定量・試料番号・層のどこが合わないか
  2. 分析機関へ照会前処理、下限、妨害、観察記録を確認
  3. 調査者が評価試料代表性と工事範囲への適用を再確認
  4. 追加手段を選ぶ別方法・残試料再分析・現地再採取
  5. 正式版を更新修正履歴を残し旧版の誤使用を防ぐ

古い分析結果は日付ではなく中身と同一性で評価する

過去の報告書は重要な書面調査資料ですが、同じ建物にあるという理由だけで現在の工事範囲全体へ使えません。採取した部屋・部位・層、製品と施工時期、その後の貼り増しや補修、今回の工事で触れる範囲を照合します。

規制基準が1重量%だった時期の分析や、クリソタイル、アモサイト、クロシドライトの3種類だけを対象にした古い結果は、現在の0.1%基準と6種類を満たすか確認が必要です。一方、旧JISという理由だけで一律無効とせず、当時の方法、対象、試料情報が現在の目的に足りるかを資格者が評価します。

再利用する場合は、元の分析報告書を添付し、新しい事前調査報告書に採用理由、適用範囲、確認した改修履歴、不足範囲の追加調査を記録します。旧報告書の試料番号や採取位置が分からなければ、非含有の根拠として広く使わない判断が安全です。

古い分析結果は日付ではなく中身と同一性で評価する:比較・確認表

古い分析結果は日付ではなく中身と同一性で評価する:比較・確認表
確認軸再利用を検討できる状態追加調査が必要になりやすい状態
場所・建材試料位置と建材が今回と同一位置不明・別部位・別層
工事履歴分析後の交換・補修なし貼増し・増築・設備更新あり
分析対象6種類と0.1%基準を確認旧3種類・旧1%基準
方法・記録方法、分析者、結果が追跡可能証明書だけで試料情報なし
工事範囲過去調査範囲内今回の解体範囲が拡大

発注仕様に入れる質問と成果物

見積比較では価格と納期だけでなく、分析方法の選定者、対象6種類、試料量不足・妨害・判定困難時の連絡、複層試料の報告方法、残試料の保管、速報と正式版の差、訂正版の版管理を同じ条件で質問します。

納品物は分析証明書だけでなく、採取位置・写真・試料台帳を含む事前調査報告書とし、分析結果が建物のどの範囲を代表するかまで調査者に説明してもらいます。施工者が同じ番号体系で工法、見積、行政報告へ転記できることを検収条件にします。

  • 採用するJIS A 1481の部と厚生労働省マニュアル上の方法
  • 定性・定量を実施する目的と対象試料
  • 法令対象6種類の確認
  • 分析調査者の要件と実施者
  • 層別結果と試料番号の表示方法
  • 判定困難・試料不足・妨害時の連絡条件
  • 残試料の保管期間と再分析条件
  • 正式報告書・訂正版・修正履歴の管理