結論:管理区分図と工事範囲図を重ねてから調査を発注する
マンションでは、石綿の有無を調べる法令上の事前調査と、管理規約に基づく工事承認を同じものとして扱わないことが重要です。施工者は工事の規模・種類にかかわらず、解体・改修する部分の全ての材料について事前調査を行います。一方、管理組合への申請や承認の要否は、各マンションの管理規約、使用細則、専有部分修繕等工事申請の運用で確認します。
国土交通省のマンション標準管理規約は、各マンションが規約を作成・見直す際のひな型です。標準規約の記載がそのまま自分のマンションへ自動適用されるわけではありません。最新版の標準規約だけで判断せず、現に有効な自分のマンションの規約、細則、過去の総会・理事会決議、長期修繕計画を管理会社・管理組合へ確認します。
最初の打合せでは、平面図・断面図へ撤去する仕上げ、下地まで触れる範囲、穴あけ・切断位置、設備停止範囲、仮設・搬出経路を記入します。別の色で専有部分、共用部分、専用使用部分、判断未確定の境界を示し、資料提供者、承認者、調査資格、追加開口時の停止手順を決めます。
- 管理上の確認管理規約、使用細則、工事申請、理事会等の承認条件を確認
- 石綿の事前調査工事で触れる全材料を文書と現地目視で確認し、必要に応じ分析
- 設計・見積へ反映含有、非含有、みなし、未調査を施工図・数量・工法へ移す
- 手続・説明法定報告・届出と管理組合・居住者への説明をそれぞれ行う
- 着工判定両方の確認線が完了し、現場の掲示・作業計画と一致してから着工
専有部・共用部の境界は建材名だけで決めない
床材、壁紙、天井材などの表面仕上げが専有部分でも、コンクリートスラブ、外壁、戸境壁、耐火区画、共用配管・ダクトへ加工が及ぶ場合があります。窓枠・窓ガラス・玄関扉も、標準管理規約では共用部分として扱う考え方が示されていますが、実際の区分は自分のマンションの規約と図面で確認します。
浴室更新では、浴室パネルだけでなく、下地板、接着剤、配管保温材、スラブ貫通部の充填材、ダクト接続部が対象になることがあります。キッチン更新では、床の重ね張り、壁の不燃板、レンジフード周辺、給排水・ガス管の貫通部まで施工手順から展開します。見える仕上げ材の一覧だけでは調査範囲を決められません。
共用部工事では、廊下や階段だけでなく、天井裏、パイプスペース、機械室、電気室、エレベーター周辺、駐車場、屋上、外壁、軒天、増築・補修部を含めます。管理区分の線と、空気・人・資材・廃棄物の動線は一致しないため、施工計画では両方を確認します。
画面幅が狭い場合は、表を横にスクロールして確認できます。
所有・管理区分ではなく、実際に切断・撤去・穿孔する材料単位で事前調査範囲を作ります。
| 工事例 | 解体・改修する可能性がある材料 | 管理上の境界確認 | 調査で見落としやすい点 |
|---|---|---|---|
| 住戸の床更新 | 床材、接着剤、下地板、モルタル、巾木 | 仕上げとスラブの境界、遮音等級の規則 | 重ね張りされた旧床材と接着層 |
| 浴室・キッチン | 耐水板、不燃板、接着剤、配管保温、貫通部 | 立て管・ダクト・スラブへの接続 | 設備を外すまで見えない裏面・旧配管 |
| 窓・玄関扉 | シーリング、下地、周辺仕上げ、耐火材 | 共用部分・専用使用権、工事承認 | 開口部周囲の補修年代と層構成 |
| 大規模修繕 | 外壁仕上塗材、下地調整材、軒天、防水下層 | 棟・面・バルコニー・専用使用部分 | 塗り重ね、部分補修、増築取合い |
| 設備更新 | 配管保温材、パッキン、ダクト、耐火被覆、天井材 | 共用系統と住戸枝管、停止・立入範囲 | 残置配管、隠蔽部、別年代の更新材 |
調査者資格は住戸内部か共用部かで確認する
2023年10月1日以降に着工する建築物の解体・改修工事は、原則として建築物石綿含有建材調査者等の要件を満たす者による事前調査が必要です。一般建築物石綿含有建材調査者と特定建築物石綿含有建材調査者は全ての建築物を調査できます。
一戸建て等石綿含有建材調査者が行えるのは、一戸建て住宅と共同住宅の住戸内部に限った調査です。厚生労働省の講習案内では、共同住宅の住戸内部以外のベランダ、廊下等の共用部分や店舗併用住宅は対象に含まれないと示されています。住戸工事の途中で共用シャフトや廊下天井へ範囲が広がる場合は、調査者の資格範囲を再確認します。
資格名だけで調査品質が自動的に確保されるわけではありません。依頼時には、対象範囲図、書面調査に用いた資料、同一建材の判断根拠、採取位置、分析方法、未調査部位、現地で追加材料を発見した場合の連絡手順まで成果物として指定します。
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工事場所が住戸内に見えても、共用部分へ調査範囲が及ぶなら資格範囲を見直します。
| 調査者区分 | マンションでの主な範囲 | 依頼時の注意 |
|---|---|---|
| 特定建築物石綿含有建材調査者 | 住戸内部・共用部を含む全ての建築物 | 実地研修等を含む資格。対象業務の経験も確認 |
| 一般建築物石綿含有建材調査者 | 住戸内部・共用部を含む全ての建築物 | 棟・設備・外装まで調査範囲を明記 |
| 一戸建て等石綿含有建材調査者 | 共同住宅の住戸内部に限る | ベランダ、廊下等の共用部や店舗併用住宅は対象外 |
| 旧登録者の経過要件 | 法令が認める一定の登録者 | 登録時期と調査時点の継続登録を個別確認 |
同じ間取りでも一住戸の結果を全戸へ安易に広げない
同じ棟・同じ間取りでも、入居時期、内装選択、過去の原状回復、漏水復旧、個別リフォームにより、床材、接着剤、壁下地、天井材が違う場合があります。代表住戸の結果を別住戸へ適用するには、製品、施工時期、色・厚さ・層構成、下地、改修履歴が同一であることを調査者が説明できる必要があります。
分析試料は、工事で触れる材料の全層を代表するよう採取します。外壁仕上塗材では表層だけでなく下地調整材、住戸の床では新旧の床材と接着層、配管では保温材と成形部・エルボ部など、部位ごとの構成を確認します。見た目が似ている、隣室が非含有だったという理由だけで非含有にしません。
入室できない住戸、家具で確認できない壁、開口前に見えない天井裏・シャフトは、調査済み範囲へ含めません。未調査の場所、理由、立入・開口できる時期、追加調査または含有みなしで施工する条件を報告書と工程表へ残します。
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代表試料の数ではなく、どの材料・範囲を代表できるかという根拠を残します。
| 差が生じる単位 | 確認する根拠 | 同一と扱いにくい例 | 対応 |
|---|---|---|---|
| 住戸 | 改修履歴、材料表示、層構成、施工図 | 個別リフォーム、漏水復旧、前所有者工事 | 住戸別の目視・必要な追加採取 |
| 棟・増築部 | 竣工・増築年、仕様、施工会社 | 別期工事、増築取合い、別材料ロット | 工期・棟ごとに建材リストを分ける |
| 外壁の面・補修部 | 塗装履歴、色、厚さ、下地、補修図 | 南北面の別改修、ひび割れ部分補修 | 面・年代・層を分けて代表性を判断 |
| 設備系統 | 系統図、更新範囲、残置部、保温仕様 | 立て管のみ更新、旧配管の残置 | 系統と年代ごとに現地確認 |
| 隠蔽部 | 開口位置、内視鏡・目視、施工記録 | 住戸ごとに天井裏・壁内が異なる | 開口後の停止・追加調査条件を設定 |
施工完了と住戸・共用部の利用再開を別のゲートにする
石綿除去等作業の完了時は、隔離等を解く前に、資格要件を満たす者等による取り残し確認、清掃、機器・区画、必要な測定・記録を作業計画に従って確認します。写真は住戸・階・部位・日時が追えるようにし、含有建材を残した範囲も記録します。
石綿作業が終わっても、住戸や共用部をすぐ利用できるとは限りません。仕上げ・設備復旧、漏水・防水、電気・消防、空調・換気、避難経路、清掃、鍵・立入管理、仮設撤去が完了したかを管理組合・区分所有者・設計監理者が確認します。
引渡しでは、事前調査報告書、分析、施工図、法定報告・届出控え、作業写真、点検・取り残し確認、廃棄物、変更、復旧、残存・未調査位置を一覧で受領します。施工会社の口頭報告だけで完了扱いにせず、未完了項目と利用条件を明記します。
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施工者の作業完了と、管理側の利用再開承認を分けると、復旧・引継ぎの抜けを防げます。
| 完了ゲート | 主な確認資料 | 確認する人の例 | 未完了時 |
|---|---|---|---|
| 石綿作業の完了 | 取り残し確認、作業・清掃記録、写真、必要な測定 | 元請、法令等の要件を満たす確認者 | 隔離等を維持し是正・再確認 |
| 建築・設備の復旧 | 仕上げ、防水、配管、空調、電気、消防の試験 | 設計監理、施工者、設備担当 | 対象区域を利用再開しない |
| 共用動線の復旧 | 仮設、エレベーター、廊下、避難経路、清掃 | 管理会社、管理組合、監理者 | 動線・時間を制限し再確認 |
| 住戸の引渡し | 採取補修、仕上げ、設備、説明、鍵 | 区分所有者・入居者、施工者 | 不具合と期限を記録 |
| 台帳更新 | 除去・残存・未調査、次回点検・工事条件 | 管理組合、管理会社 | 受領責任者と保管先を決める |
最初に工事範囲と管理区分を重ねる
床・壁・天井の仕上げが専有部でも、躯体、窓、配管立て管、共用ダクト、耐火区画は共用部分に関係する場合があります。管理規約、竣工図、工事申請書、施工図を重ね、誰の承認と資料提供が必要かを決めます。
一戸建て等石綿含有建材調査者が調査できるのは一戸建て住宅と共同住宅の住戸内部に限られ、共用部は対象外です。調査者の資格範囲も確認します。
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最初に工事範囲と管理区分を重ねる:比較・確認表
| 工事例 | 主な調査対象 | 管理上の確認 |
|---|---|---|
| 住戸内装 | 床、接着剤、壁・天井の全層 | 専有部工事規則、躯体への加工 |
| 浴室・キッチン | 耐水板、配管保温、ダクト | 立て管・スラブ貫通 |
| 大規模修繕 | 外壁塗材、下地、軒天、防水 | 全棟・改修年代の区分 |
| 設備更新 | 機械室、配管、耐火材、天井裏 | 共用設備停止と立入 |
| 解体・建替え | 全住戸・共用部・設備材 | 棟別調査と居住者退去 |
資料は管理組合と住戸の両方から集める
- 管理組合竣工図・修繕履歴・共用部調査
- 区分所有者住戸内改修履歴・製品資料
- 設計・監理今回の施工図と仕様
- 調査者対象範囲・未調査部位・判定
- 施工者実作業と追加発見を反映
同じマンションでも住戸ごとに違う
入居者によるリフォーム、漏水復旧、設備交換により、同じタイプの住戸でも床接着剤や壁下地が異なることがあります。モデル住戸1室の結果を全住戸へ適用するには、同一性の根拠が必要です。
大規模修繕でも、棟、面、増築部、過去補修部、材料ロットを区分します。塗り重ねられた外壁は複層の試料を採取し、下地調整材まで確認します。
居住中調査の安全と説明
- 対象住戸・共用廊下・設備室の立入日時を一括調整する
- 採取室の家具・居住者・ペットを退避する
- 空調停止・養生・清掃・補修方法を事前説明する
- 採取位置と補修後の写真を住戸ごとに管理する
- 結果が出るまで対象箇所へ触れない
- 追加調査が必要な住戸の連絡窓口を一本化する
大規模修繕の見積へ反映する
調査は設計調査段階で行い、含有建材の数量、除去・飛散防止方法、仮設、廃棄、監理、居住者対応を工事見積へ反映します。着工直前の発見は、足場期間と住民説明を含む大きな手戻りになります。
複数社の見積条件をそろえるため、調査報告書、対象数量表、工法条件、作業時間、搬出経路を共通資料として配布します。
調査会社の簡易一覧だけで工事見積を取らず、位置図・判定根拠・未調査部位を含む正式報告書を使います。
失敗しやすい3つの引継ぎ境界
第一は専有部と共用部の境界です。住戸内工事でもスラブ・外壁・共用配管へ触れる場合があります。第二は調査会社と施工会社の境界で、報告書の含有位置が見積数量へ移されないことがあります。第三は理事会と次期役員の境界で、完了後の台帳が引き継がれないことです。
各境界で、渡す資料、受領者、承認日を記録します。大規模修繕では設計監理者が調査報告書・数量表・施工図を突合し、住戸工事では管理会社が工事申請時に既存台帳を照会する仕組みにします。
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失敗しやすい3つの引継ぎ境界:比較・確認表
| 境界 | 必要な受渡し | 確認者 |
|---|---|---|
| 専有/共用 | 管理区分図・調査範囲図 | 管理会社・区分所有者 |
| 調査/施工 | 含有位置・数量・未調査条件 | 設計監理・元請 |
| 現役/次期管理 | 更新台帳・完了記録 | 理事会・管理会社 |
管理組合が残す長期台帳
- 棟・階・部位別の含有建材位置図
- 分析結果と採取位置・補修記録
- 未調査住戸・隠蔽部と追加確認条件
- 除去・封じ込め・囲い込みの施工記録
- 残存建材の点検日と状態
- 次回工事申請時に調査結果を照会するルール
