アスベストは天然の繊維状鉱物

アスベスト(石綿)は、特定の商品名ではなく、天然に産出する繊維状けい酸塩鉱物の総称です。「せきめん」「いしわた」とも呼ばれます。一本一本の繊維が非常に細く、熱や摩擦に強く、丈夫で変化しにくい性質を持つため、かつては建材、摩擦材、シール材など幅広い製品に利用されました。

現在は石綿を含む製品の製造・輸入・使用等が禁止されています。しかし、禁止前に施工された建物や、その後の改修で残された部分には石綿含有建材が存在する可能性があります。新しく使うことが禁止されたことと、既存建物からすべてなくなったことは同じではありません。

石綿の問題を理解するうえで最も重要なのは、「建材に含まれていること」と「空気中へ飛散した繊維を吸い込むこと」を分けることです。調査の目的は、含有建材の位置と状態を把握し、工事や維持管理で繊維を飛散させないための判断材料をつくることにあります。

アスベスト問題を理解する4つの要点
  1. 天然の鉱物単一の製品名ではなく、繊維状を呈する鉱物の総称
  2. 優れた材料特性耐熱・断熱・補強・耐摩耗などの目的で過去に広く利用
  3. 既存建物に残存現在は新規使用が禁止されても、過去の建材は建物内に残る
  4. 飛散と吸入が問題劣化や切断・破砕で微細繊維が飛散すると、ばく露につながる

古い建物だから必ず含まれる、あるいは見た目が新しいから含まれない、とは判断できません。個別の建材ごとに根拠を確認します。

規制と分析の対象になるアスベストは6種類

法令上の石綿は、蛇紋石族のクリソタイル1種類と、角閃石族の5種類に分かれます。日本で大量に利用された代表的な種類はクリソタイル、アモサイト、クロシドライトですが、調査・分析では6種類すべてを対象として考える必要があります。

白石綿、茶石綿、青石綿という通称は鉱物名に付された呼び方であり、色を見て現場で安全性や種類を判定するためのものではありません。クリソタイルを含め、すべての種類について健康影響を前提とした管理が必要です。

重量0.1%を超えて石綿を含有する物は法令上の規制対象です。0.1%は製造等や作業規制の判定基準であり、「それ以下なら吸入して安全」という健康上の安全値ではありません。

重量0.1%を超えて石綿を含有する物は法令上の規制対象です。0.1%は製造等や作業規制の判定基準であり、「それ以下なら吸入して安全」という健康上の安全値ではありません。
鉱物群石綿名実務上の注意
蛇紋石族クリソタイル(白石綿)日本で最も多く使われた代表的な種類。白石綿だから安全という意味ではない
角閃石族アモサイト(茶石綿)保温材・断熱材などに使われた例がある
角閃石族クロシドライト(青石綿)吹付け材や石綿セメント管などに使われた例がある
角閃石族トレモライト意図的な使用だけでなく、原料への混入も含めて分析対象になる
角閃石族アクチノライト外観では判断できず、必要に応じて分析で確認する
角閃石族アンソフィライト他の5種類と同様に規制・分析の対象になる

なぜ建材に使われ、どこに残っているのか

石綿は、耐熱性、断熱性、耐火性、耐摩耗性、補強性、吸音性などを一つの材料で得やすく、セメントや樹脂とも混ぜやすいことから、建物のさまざまな部位に使われました。よく知られる吹付け材だけでなく、板状の建材、床材、外壁材、配管や設備の保温材、接着層なども調査対象になり得ます。

同じ部屋でも、天井の表面材、下地、梁の耐火被覆、配管保温材は別の建材です。また、建築当初と改修時で施工年代が異なることもあります。そのため「建物にアスベストがあるか」という一問だけでは足りず、工事で触れる部位を層ごとに確認します。

表は代表例です。製品名、施工年代、改修履歴、現物の状態を照合して個別に判定します。

表は代表例です。製品名、施工年代、改修履歴、現物の状態を照合して個別に判定します。
建材区分主な使用部位の例見落としやすい点
吹付け材鉄骨梁・柱の耐火被覆、機械室や天井の断熱・吸音吹付けロックウールなど外観が似る材料があり、見た目だけでは判定できない
保温材・断熱材・耐火被覆材配管エルボ、ボイラー、煙突、屋根用折板、梁・柱表面のカバー内や設備裏側に隠れている場合がある
成形板天井・壁、軒天、外壁、スレート屋根・波板、間仕切り板そのものだけでなく、下地や接合部も工事範囲に含まれる
床材・接着剤ビニル床タイル、長尺シートの下、接着層、下地調整材仕上げ材を剥がして初めて別の層が現れることがある
仕上塗材・下地調整材外壁、内壁、補修部塗膜だけでなく下地を削る・はつる工法まで確認する

危険性は「存在」ではなく「飛散と吸入」まで考える

石綿含有建材が建物に存在するだけで、利用者が直ちに高濃度の石綿へばく露するとは限りません。セメントなどで固められ、破損や劣化がなく、通常使用中に触れない建材は、繊維が室内へ飛散する可能性が比較的低い状態と考えられます。

一方、露出した吹付け材が劣化している場合や、含有建材を切断、穴あけ、研磨、破砕、はつり、剥離する場合は、繊維が空気中へ飛散するおそれが高まります。目に見える粉じんだけが問題ではなく、肉眼で見えない微細な繊維を吸い込まないための対策が必要です。

疑わしい建材を見つけても、所有者が自分で削ったり、割ったり、試料を採ったりしてはいけません。状態を変えず、工事範囲と建物資料を整理して、資格を持つ調査者へ確認します。

含有建材がばく露につながるまで
  1. 建材に含有建材内部に石綿が使われている可能性がある
  2. 劣化・加工切断、穴あけ、研磨、破砕、剥離などで建材が損傷する
  3. 繊維が飛散目に見えない微細な繊維が空気中へ放出される
  4. 吸入ばく露作業者、利用者、周辺の人が繊維を吸い込むおそれが生じる

事前調査と工事計画は、この連鎖を起こさないために行います。

健康影響は長い潜伏期間を経て現れることがある

石綿繊維を吸い込むことは、石綿肺、肺がん、悪性中皮腫などの原因になります。健康影響は、ばく露してすぐに現れるとは限らず、長い年月を経て発症することがある点が特徴です。

発症の有無や時期は、ばく露量、期間、作業内容、喫煙など複数の要因に左右されます。過去のばく露が心配な場合や症状がある場合は、ウェブ記事だけで自己判断せず、石綿関連疾患を扱う医療機関や公的相談窓口へ相談してください。

潜伏期間は一般的な目安であり、個人ごとの診断や発症時期を示すものではありません。

潜伏期間は一般的な目安であり、個人ごとの診断や発症時期を示すものではありません。
主な疾患概要厚生労働省が示す潜伏期間の目安
石綿肺石綿ばく露によって肺が線維化するじん肺の一種15~20年
肺がんばく露量が多いほど発生が多いことが知られ、喫煙との関係にも注意が必要15~40年
悪性中皮腫胸膜、腹膜などに生じる悪性腫瘍20~50年

石綿の種類や含有率を見て、個人の健康上の安全・危険を自己判断することはできません。ばく露を防ぐことが基本です。

写真や見た目だけではアスベストを判定できない

現地で行う「目視調査」は、肉眼で石綿繊維を探す作業ではありません。調査者は、図面と現物の違い、建材の種類、施工位置、メーカー名、商品名、型番、認定番号、印字、製造時期などを確認し、部屋・部位・材料ごとに判定根拠を積み上げます。

設計図書に石綿の記載がなくても、後の改修や補修で別の建材が追加されている場合があります。反対に、石綿含有建材データベースで製品名が見つからないことも、非含有の証明にはなりません。現物との同一性を確認できないときは、分析または石綿含有とみなす判断が必要です。

スマートフォンの写真は、調査範囲や建材候補を相談する材料にはなりますが、「石綿なし」という最終判定には使えません。色、手触り、築年数だけで自己判断しないことが重要です。

写真や見た目だけではアスベストを判定できない:比較・確認表

写真や見た目だけではアスベストを判定できない:比較・確認表
確認方法分かることそれだけでは分からないこと
設計図書・仕上表当初設計の材料名や施工部位現物との差異、後年の改修材、隠蔽部
現地目視現物の種類、位置、印字、劣化、図面との差異外観が似る材料の石綿含有有無
メーカー資料・データベース製品名と製造時期が一致した場合の判定根拠未掲載製品や現物との同一性が不明な建材
分析調査採取した試料における石綿含有の有無や種類別の部位・別ロットの建材まで自動的に代表するとは限らない

解体・改修前に事前調査が必要な4つの理由

解体、リフォーム、設備更新、原状回復などで既存建材に手を加えると、隠れていた含有建材を壊す可能性があります。事前調査を後回しにすると、着工後に工事停止、追加分析、見積変更、届出のやり直しが発生し、作業者や周辺への飛散防止も間に合わなくなります。

調査結果は、単に「石綿あり・なし」を記録するだけのものではありません。含有する建材と範囲が分かることで、適切な工法、養生、呼吸用保護具、作業手順、廃棄物区分、届出、工程、費用を決められます。発注者、元請、調査者、除去業者が同じ範囲図を共有することが事故と手戻りを防ぎます。

事前調査結果が決める4つのこと
  1. 人と周辺を守る作業者のばく露と、建物利用者・周辺環境への飛散を防ぐ
  2. 工法を決める湿潤化、隔離、集じん、保護具など建材と作業に合う対策を選ぶ
  3. 法令へ対応する結果報告、届出、掲示、記録、資格要件を着工前に確認する
  4. 工程と費用を確定する分析、専門工事、廃棄物処理、届出期間を見積と工程へ反映する

エアコン配管の穴あけ、天井開口、床材の剥離、外壁の研磨など、小さく見える工事でも既存建材へ手を加える場合があります。工事名ではなく、実際の作業方法で判断します。

事前調査と行政への結果報告は別の義務

よくある誤解が、「80㎡未満なら調査不要」「100万円未満なら調査不要」というものです。80㎡・100万円は、一定規模以上の工事について行政へ事前調査結果を報告する基準です。解体・改修前の事前調査そのものは、原則として工事規模にかかわらず対象部分について必要です。

建築物の解体では解体部分の床面積合計80㎡以上、建築物の改造・補修と対象工作物の解体・改造・補修では請負代金合計100万円以上が行政報告の主な基準です。請負代金には材料費と消費税を含み、事前調査費は除きます。同一の施工者が一連の工事を複数契約に分けても、合算して判断される場合があります。

地域の条例や工事内容により追加の届出・手続きが必要な場合があります。所在地を所管する自治体の最新情報も確認してください。

地域の条例や工事内容により追加の届出・手続きが必要な場合があります。所在地を所管する自治体の最新情報も確認してください。
確認項目事前調査行政への結果報告
対象原則、規模にかかわらず解体・改修する対象建材法令で定める一定規模以上の工事
建築物の解体工事範囲の建材を調査解体部分の床面積合計80㎡以上
建築物の改造・補修切断・穴あけ・剥離等を行う建材を調査請負代金合計100万円以上
対象工作物の解体・改造・補修対象となる材料・設備を調査請負代金合計100万円以上
石綿がなかった場合判定根拠を含む記録が必要報告対象規模なら「なし」でも報告

調査は書面・現地・分析または含有みなしで進む

建築物の事前調査は、原則として書面調査と現地目視調査を組み合わせて行います。2023年10月1日以降に着工する建築物の解体・改修工事では、原則として建築物石綿含有建材調査者等の有資格者が調査します。2026年1月1日以降着工の一定の工作物についても、工作物石綿事前調査者等による調査が必要です。

書面と現地確認で石綿含有の有無を判断できない建材は、適切な位置から試料を採取して分析するか、石綿含有とみなして対策を計画します。分析する場合も、試料が対象建材を代表しているか、採取位置と試料番号が報告書で追えるかが重要です。

一戸建て等石綿含有建材調査者が調査できる範囲は、一戸建て住宅や共同住宅の住戸内部などに限られます。マンション共用部、店舗併用部分、ビル、工場などは、資格の調査範囲が案件に合っているかを確認します。

相談から工事計画までの基本フロー
  1. 工事範囲を整理どの部屋・部位・層を、どの方法で壊すかを明確にする
  2. 書面調査設計図書、仕上表、改修履歴、製品資料を確認する
  3. 現地目視調査現物、印字、施工位置、図面との差異、未調査部位を記録する
  4. 分析または含有みなし不明建材を分析するか、含有前提で工事対策を計画する
  5. 報告書と工事計画判定範囲を届出、見積、工程、施工方法、廃棄物処理へ反映する

所有者・発注者が最初に準備すること

初めて調査を依頼するときは、アスベストの知識をすべて身につけてから相談する必要はありません。まず、予定している工事範囲と着工希望日を明確にし、手元にある建物資料を施工者・調査者へ渡します。資料がそろっていなくても調査はできますが、改修履歴や過去の報告書があると調査漏れと重複分析を減らせます。

石綿含有が判明しても、建物内のすべてを直ちに除去するとは限りません。工事で触れるのか、建材が劣化しているのか、通常使用中に飛散のおそれがあるのかを確認し、除去、封じ込め、囲い込み、維持管理などから適切な対応を検討します。自己判断で触らず、調査結果を基に専門家と決めます。

  • 工事範囲が分かる平面図、施工図、見積書を用意する
  • 竣工図、仕上表、仕様書、建築確認申請の副本を探す
  • 過去の改修履歴、修繕記録、アスベスト調査報告書を共有する
  • 切断、穴あけ、研磨、剥離、はつりなど実際の作業方法を伝える
  • 調査者の資格区分と、その資格で対象建物を調査できるか確認する
  • 見積書に書面・現地・必要な分析・報告書の費用が含まれるか確認する
  • 分析、届出、含有時の専門工事を見込み、着工までの期間を確保する
  • 調査結果、採取図、分析結果、工事記録を将来の改修に備えて保管する

疑わしい建材があっても、自分で削る・割る・剥がす・採取することは避けてください。まず写真と位置を記録し、建材を動かさずに専門家へ相談します。